はじめに
この記事は前回の続きです。
ブラウザゲーム「逃げる僕たちと暗黒の森」を題材に、僕(中野 藤右衛門)がどのようにシナリオを書いていったかをまとめた記事となります。
前回同様、悩みながらぐだぐだに進行していった過程を、時系列順かつ赤裸々に書いてあります。
シナリオ制作している人の何かの参考になるかも・・・?
ゲームのネタバレが含まれているので、未プレイの方は無料のブラウザゲーム「逃げる僕たちと暗黒の森」をまずはプレイして頂ければ嬉しいです!
どこから手をつけるか検討した
前回で、ゲーム性とシナリオの大筋が固まりました。
次のステップとして、どの部分のシナリオから手をつけていくか考えることにしました。
個人的にはオープニングを先に作りたい派なのですが、今回は「ゲームとして一番メインのところで必須となるシナリオ」を先に作ることにしました。
なぜなら、「ゲームの試作版を作る」ということを優先したかったからです。
やっぱり試作版がないと「このゲーム、面白いんじゃね?」とか「このゲーム、根本的につまんない」などといった、リアルな手応えがわからないんですよね。
それに形あるものができることで、改善のための具体的なアイディアが思いつきやすくなります。
ということで、最低限ゲームのメインの部分が遊べる試作品を作ることを目標に据えて、オープニングやらエンディングやらのシナリオ、BGMの選定、イラストなどは全部後回しすることにしました。
最低限遊べればいいということを考えると、僕が最初に取り掛かるべきシナリオは、ゲームのメインとなる「子供たちが逃げる最中に出会う、様々な危険なイベント(通常イベント)」ということになります。
なんとなく、この通常イベントの数は完成版では15個くらいかなと思ったので、まずは試作版に向けて5〜6個のイベントを作ってみようということになりました。
キャラ設定を固めた
イベントのシナリオを作成するにあたって、先にキャラ設定をざっくり用意しておくことにしました。
前回の記事で書いたように、イベントパートでは
・子供たちはそれぞれ特殊技能を持っていて、それをうまく使うと困難な選択肢を乗り越えられる
というゲーム性を盛り込むことにしていたからです。
つまりイベントのシナリオを書くにあたっては、子供たちの特殊技能を先に設定しておく必要があるわけですね。
しかしながら、実は僕、キャラクターの設定表とかを作ったことがこれまでになかったので、どう進めていけばいいのかちょっとわからなかったのです。
とはいえ、基本的にはゲーム性から逆算していけばいいんじゃないかなと思いました。
前回の「嘘の上塗り法」と根本的には同じで、必要となるゲーム性からなるべくロジカルにキャラクターに必要な要素を導いていく感じです。
具体的には下記のような流れで進めていきました。
「兵士から逃げながら、魔女に会うために森の奥を目指す」という設定や「リソース(体力など)を管理するゲーム」という点を踏まえると・・・
- 熊などの、森に住む危険な動物と遭遇するイベント
- 底無し沼などの、森の中の険しい地形を乗り越えるイベント
- 追いついてきた兵士をやり過ごすイベント
- リソース(体力など)を回復できるご褒美イベント
などを出していきたいところなので、これに対応する特殊技能を持つキャラが必要です。
●動物と戦える特殊技能
→村の子供だから、狩りの技能とかかな?
→動物と友達になれるような技能もいいね。
●険しい地形を乗り越える特殊技能
→道をふさぐ岩とかをどかせる力持ちキャラは入れたいところ。チームに一人は脳筋キャラが欲しいよね。
→木登りとか泳ぎとか得意な運動神経の良いキャラがいれば、偵察に使えそう。
→ゲームブックとかだと罠がよく出てくるから、罠を解除できる注意力のあるキャラも欲しいな。
●兵士をやりすごす特殊技能
→視力とか聴力がめちゃくちゃ良い、チームのレーダーみたいなキャラかな。ヴィンランド・サガの「耳」みたいな。
●体力を回復させる特殊技能
→薬を扱えるキャラを出そう。頭良さそうだから、罠解除キャラと同一人物でいいかも。
こんな感じで、少しずつ必要なキャラ設定を掘り下げていきました。
また、
「体力ゲージが減ったら、年長者や力持ちキャラが背負ってあげることで体力が回復できる」
というゲーム性も当初は想定していたので、子供たちの年齢はバラバラにすることにしました。
能力の設定から考えて・・・
●薬&罠キャラ
→知識豊富な感じだから一番年上にしよう。治す人だから優しい人な感じ?
●レーダーキャラ
→高性能なレーダーは壊れやすいイメージがあるから、体力のない一番年下の子にしよう。
●動物友達キャラ
→純真な子供って感じかな。
●狩りキャラ
→弓とか使えるんだから、けっこう年上のほうじゃないか? 狩人は無口なイメージ。
●力持ちキャラ
→たぶん年上グループでしょう。気は優しくて力持ち的なベタな性格かな。
●運動神経キャラ
→年上グループが3人だから、バランス取るために年下グループで。運動できる人は明るいイメージ。
とざっくり決めました。
また、子供たちの名前は「エイ、クレ、ノノ、モク、ユニ、シム」にしていたので、なんとなくの語感から下記のように決めていきました。
●ユニ → 柔和そうな響きだから、優しい薬キャラで。たぶん女の子でしょう。
●モク → パワー系っぽい。男の子でしょう。
●シム → なんとなく男っぽいから弓キャラで。
この3人は速攻で決まりました。
「ブーバ・キキ効果」とか、本の「なぜ怪獣はガギグゲゴなのか」などでも取り上げられていましたが、国籍関係なく、人間は音の響きに合わせて共通のイメージを連想するみたいですね。(なんでも発声するときの口腔内の空気の流れの感覚が原因とか)
一方、エイ、クレ、ノノをどのキャラにするかは悩みました。
クレ、ノノは女の子っぽい気がします。
エイは・・・魚? ぎりぎり女の子っぽい気もします。
ここらへんは悩んでもしょうがないので、
●ノノ → 運動神経キャラ
●クレ → 動物友達キャラ
●エイ → レーダーキャラ
と適当に決めておきました。
以上をもとに、下のキャラ設定表(2018年時点)を設計しました。
これは主に自分がシナリオを書く際に混乱しないための設定資料という役割です。
ただ、プレイヤーにも各キャラの特殊技能などをゲーム内で開示したほうがいいかなとも思ったので、公開することを念頭に、読み物風の備考欄も作成しています。
この表を作ってる途中で、各キャラにデメリットとなる特徴もあるとゲームが複雑化して面白いかもと閃いたので、それも備考欄に組み入れてます。
また、「危険なときには囮になるキャラを選ぶ」というゲーム性から「血縁者がいたほうが納得感あるよね」と思ったので、適当に血縁関係を散りばめました。
こうやって、ゲーム性から逆算する形でキャラ設定を固めていくことができました。
下記は前回で出した図に補足したものですが、全てはゲーム性が引き立つように用意していくというイメージで設計するとやりやすかったです。
こうして設定表ができたわけですが、これは「逸脱してはならない絶対的ルール」というよりは、「設定が変化するたびに更新していく備忘録」という立ち位置で使ってました。
僕の場合、なぜか書いてる途中で「最初の設定ではこうだったけど、やっぱりこのキャラはこんな行動しないよな」などとキャラクターの性格や状況などをどんどん変えていきたくなるんですよね。
シナリオ書いてる他の人も同じようなことを言っていたので、得てしてキャラ設定は書いているうちに変わっていくものなのでしょう。
おそらくこれは、キャラクターの描写が増えていくことで、人物像がより具体的になっていくことが原因だと思われます。
たとえば「優しい」って設定のキャラがいたとします。
「優しい」って、かなり抽象的ですよね。「優しい」にもいろんなタイプがあって、たぶん人によって想像する優しさって変わってくると思います。
ここで、物語の展開上、「優しい」ことを示す行動として「誰かの代わりに憎まれ役になった」という内容の文章を書いたとします。
こうすることで「優しい」という多様に解釈できる抽象的な表現が、「誰かの代わりに憎まれ役になるタイプの優しさ」という具体的なものに変わっていくわけです。
この「優しさ」って、「会うたびに甘えさせてくれる優しさ」とはまた違うタイプの「優しさ」ですよね。
ということで、「誰かの代わりに憎まれ役になった」という内容を書いたことで、このキャラは「優しい性格」というふわふわな設定から「自己犠牲的な思いやりを持ち、世間体を気にしないタフな性格」というように解像度が上がっていくことになります。(≒キャラ設定の変更)
その結果、「優しいキャラに優しく慰めてもらうシーン」とかを最初に想定していた場合、「いや、このキャラは優しく慰めたりしないはず・・・」などと思って展開も変わっていくことになります。
こうやって解像度が高まることで、「この状況ならこのキャラはこう動くに違いない」と、いわゆる「キャラが勝手に動く」現象が発生するので、執筆が楽になりますし、事前のプロットを逸脱する面白い展開などが生まれるようになります。
(なんだかベイズ更新みたいですね)
こんな感じで自分が書いた文章に合わせて、キャラ設定がより詳細に更新されていく過程が書いてて楽しいところですね。
さて、これでキャラの大雑把な設定もできたので、やっと執筆作業に入ることができるようになりました。
分岐の管理を考えた
さあ、イベントのシナリオを書いていこう!と決心したときに、とある悩みが生まれました。
「選択肢の分岐ってどう管理すればいいんだろう?」と。
小説を書いていたころ、僕は「百円のノートに百円のボールペンで書き殴る」というかなりのアナログスタイルで下書きをすることが多かったのですが、今回は小説ではなくてノベルゲームです。
選んだ選択肢に加えて、子供たちの特殊技能によって書く文章が変化していくことになります。
「この選択肢を選んだとき、かつこの特殊技能を持ったキャラがいるとき」などと細かく場合分けして書く必要があるので、さすがに手書きは無謀です。
そこで、「なにかこういうノベルゲームを作る際に使えるツール、ググればきっと見つかるだろう」と検索してみました。
今回最終的には作っちゃうおじさんに渡してプログラムに落とし込んでもらうので、
- テキストデータ(.txt)で出力できる
- 選択肢の分岐で僕(シナリオ担当者)と作っちゃうおじさん(プログラム担当者)の両方が混乱しない
というツールが必要でした。
ただ、結構いろいろと探したのですが、なかなかしっくりくるものは見つかりませんでした。
まあきっと作ってるうちに良いツールが見つかるんじゃないだろうかということで、一旦GoogleSpreadシートでひたすら書き殴っていくという形式で進めることにしました。
こんな感じです。(スマホの人は二本指でピンチして拡大してね)
一番左の列にイベント名、次の列からは各選択肢を選んだ際に表示する文章や生存キャラによる細かい違いを書いています。
いろいろとやりにくい点は多かったのですが、とりあえずはこの方式で進めることにしました。
「嘘の上塗り法」でイベントパートを執筆した
作業手順としては次のように進めました。
まず最初に、遭遇しそうなイベント名をいくつかリストアップします。
森の中で起きそうな危険な状況としてぱっと思いついたのは・・・
- 大きな河で行く手を阻まれる
- 野犬が襲いかかってくる
- 熊と出会ってしまう
- 高い崖を登る
- 細い吊橋を渡る
- 森の中で迷子になってしまう
というものでした。
あとは体力を回復する機会として、「泉の水で喉の乾きを癒す」というイベントも用意することに決めました。
次に、これらのイベントの選択肢を考えていきます。
選択肢の内容は、大まかに4つのタイプを用意しました。
- 正解:何事も起こらない安全な選択肢
- 救済ありの不正解:危険だけど、仲間がいれば安全な選択肢
- 不正解:危険な事態になる選択肢
- ユニーク:上3つとはちょっと違う、ひねったやつ(例:特定の仲間がいると危険になるなど)
4つも選択肢があるとプレイヤーとしても大変になりそうだったので、これらの4つのタイプからどれかをピックアップor組み合わせて、2つか3つの選択肢を作ることにしました。
ノベルゲームは最終的に、安全な選択肢を暗記すれば簡単にクリアできてしまうので、正解選択肢は少なめ & 不正解はちょっと厳し目くらいでちょうどいいかなと当時は思っていました。(その結果、難易度高すぎる結果になったので反省です・・・)
あとは事前に用意したキャラ設定表と見比べながら、その状況で活躍しそうなキャラをピックアップしてシナリオ部分を書いていきます。
イベント「河」を例にすると、激流の河が行く手を阻むというシチュエーションをどう対応するかを考えて、まずは3つほど選択肢を考えます。
たとえば・・・
・河に飛び込む
・橋を探す
・ボートを探す
という選択肢でしょうか。
そこから、これらの選択肢を選んだときに、状況や設定からプレイヤーが違和感を覚えない展開を考えていきます。
具体的には下記のような流れで考えていきました。ここも「嘘の上塗り法」で、ツッコミポイントを潰すように作成しています。
●河に飛び込む
→明らかに危険そう。でも泳ぎが得意という設定のキャラなら平気かも。
●橋を探す
→そんなすぐ見つかる位置にあったら、そもそもこんなイベントは起きてないはず。
→だいぶ遠くのほうにあるか、闇夜で見えにくいみたいな状況なら納得感ある。
→視力の良いキャラとか物知りで勘の良いキャラが活躍できるかな。
→せっかちキャラがいると探さずに飛び込むみたいな攪乱もあると良い。
→橋を探すにあたって上流か下流かに沿って探していくはず。
→上流に橋があった場合、上流に向かって歩いていたらさすがに全員気づかないと変。
→基本的には橋のない下流を目指して歩き出す設定にしよう。
→視力の良いキャラや勘の良いキャラがいる場合だけ上流に向かうようにしよう。
●ボートを探す
→橋と同じ理由ですぐに見つかる位置にあるのは変。
→子供たち6人が乗れる巨大なボートがたまたまあるのも変。
→なにか丸太などで代用するなら違和感が少ないかも。
→丸太を動かすのにパワーキャラが活躍できそう。
このようにひとつずつ状況から展開を推察していき・・・
●河に飛び込む(不正解選択肢)
→ 泳ぎが得意なキャラ以外はダメージ
●橋を探す(救済あり不正解 & ユニーク選択肢)
→ 視力の良いキャラor勘の良い物知りキャラがいれば発見できる
→ 特定の仲間がリーダーだと河に飛び込んでしまう
●ボートを探す (救済あり不正解 & 不正解選択肢)
→ 視力の良いキャラとパワーキャラがいれば、発見した丸太を浮き輪がわりにしてダメージ軽減
→その仲間がいないと河に飛び込む
というようにまとめていき、テキストを執筆していきました。
また、書いてる途中で別の問題が出てきました。
執筆当初、河に飛び込むシーンなどでは「子供たちは河へ飛び込んだ」といったように書いていたのですが・・・
別のイベントのダメージなどで子供たちの残り人数が一人になっていた場合だと、「子供たち」という表記が使えないんですよね。一人しかいないので。
そうです。ゲームシナリオの場合、状況によって表現を変化させなければならない箇所が出てくるんですね。
他にも、選択肢を判断する子供たちの中のリーダーの名前も、子供たちの生存状況によって異なります。
そこで、状況によって変わるということを意味するために「:children」や「<リーダー>」などという表記を使って執筆していました。
あとで作っちゃうおじさんが良い感じのプログラムを書いて、状況によって良い感じに置換してくれるだろうという目論見でした。
それにしても、他のゲームシナリオライターさんはどう書いているのだろうか・・・?
このようにざっくりとまずは書いていったのですが、書いてる途中で、とあることに気づいてしまったのです。
書くのがめちゃくちゃしんどい!
6人の子供たちの特殊技能と3つの選択肢を掛け合わせつつ、前後のイベントでの生存状況に合わせた文章表現、なおかつキャラを均等に活躍させるというバランス、これらをゲーム画面を想像しながらGoogleSpreadシートにわかりやすく書いていくという作業に発狂しそうでした。
このキャラがいてこのキャラがいない場合、この選択肢を選ぶとこの選択肢に飛んで・・・などをずっと考えてたら意識が飛んでいきます。
試作版を動かしながら書きたいのですが、その試作版を作るためのテキストが難しいというジレンマ。
さらには「野犬のイベントと熊のイベントって、実質同じじゃね?」とか、「クレとノノがどっちがどっちだか忘れた!」などとてんやわんやの状況でした。
これは1イベント作るだけで相当時間が掛かるなあということで、作っちゃうおじさんと話し合いをしました。
作っちゃうおじさんは何故か1ヶ月に1ゲーム公開するというストイックな目標を自分に課しており、今回のゲームも1ヶ月で公開する予定だったのです。
しかし、取り掛かった感じで絶対不可能なことを悟ったので、「まずは今月用の簡単なゲームを先に作って、このゲームは時間を掛けて少しずつ進めていこう」という話になりました。
ということで月日は流れ・・・
その間に、僕も「石油王と遊びたい」のような比較的単純なノベルゲームのシナリオ作成をしたり、転職したり結婚したりと大忙しでした。
作っちゃうおじさんも毎月いろんなゲームを作っては発信してました。
そうです。
作っちゃうおじさんと僕は、日々に忙殺され、今回のゲームの存在を完全に忘れていたのです。
大人になると記憶力がどんどん減退していくものですね。
「後でやろう」と言って、実際にやることはほとんどないのが人生の真理です。
別のゲームを作り始めた
気がつくと3年が経っていました。
3年もあれば世の中も大きく変わっていきます。
とくに世の中を変えた出来事といえばやはり、新型コロナウイルスですね。
ええ。
お察しの通り、感染しました。
ほぼ家から出ない生活をしてたので、当初はただの風邪だと思ってたのですが、ばっちり陽性でした。
40度のやばい熱が出てホテルに移送され、途中で悪化して病院に搬送されました。
当時は結婚したばかりだったので、あの愛のささやきは死亡フラグだったのか!?とめちゃくちゃ焦りましたね。
いろいろありましたが、病院の人たちの手厚く的確な看護・治療で、後遺症もなく無事生還でき、退院したときは世界が輝いて見えました。
そのとき思ったのは、
・死の危険は意外と身近にあるので、元気なうちにアウトプットをたくさん残しておこう。
・医療の進歩はすごい。医療関係者のみなさまありがとう。
ということでした。
そんなときに作っちゃうおじさんから「チョコバーの中に指が入ってた話を書いてくれ」という依頼が来たので、一気に書き上げました。
その後、「評判良かったから、文章量増やしたノベルゲームを作りたいけど良いネタある?」と作っちゃうおじさんに聞かれた際、「あの放置してた、子供たちが逃げるゲームはどう?」と提案したのでした。
ちょうど自分がコロナに感染したこともあり、「感染病と人間の、戦いと進歩」をコンセプトにしたあの作品の存在を思い出し、執筆意欲が湧いてきていたのです。
それに、3年前はどこから手をつけて良いかわからなかったのですが、シンプルなシナリオ分岐ゲームである「チョコバーの中に指が入っていた話」を制作したことで、なんとなく制作の道筋が見えてきたということもあります。
執筆環境を整えた
ということで、2021年に制作再開しました。
とはいえ、3年前と同じように進めていては、「書くのしんどい」となるのは目に見えています。
しかし我々も3年間、ただ無為に過ごしていたわけではありません。
今回は我々の秘密兵器、プログラムとシナリオを直結させるための「コマンド」を用意したのです!
↓こんな感じです。(スマホの人は二本指でピンチして拡大してね)
初見だとなんのこっちゃと思うかもしれません。
例を見たほうが早いと思うので、このコマンドを踏まえて実際に書いたイベントのシナリオが下記となります。
このような形で、「@」を先頭にしたコマンドは「選択肢を分岐させる」「特定のシナリオに飛ばす」「体力を変化させる」などゲーム上の処理を担っています。
例えば「@Select,泳いで渡ることにした。,River_s1,上流で橋を探すことにした。,River_s2,下流で橋を探すことにした。,River_s3」という箇所。
これは選択肢分岐を表示し、「泳いで渡ることにした」を押したら「River_s1」という名前のシナリオに飛ぶよ、というようなコマンドです。
「@Label,River_s1」という箇所が「ここがRiver_s1のシナリオが始まるところだよ」というコマンドで、選択肢を押したあとの具体的なシナリオを書いていく箇所となります。
まずはこうやってゲーム上の動きを含めたシナリオを書いていき、それから作っちゃうおじさんが特殊な処理をほどこすことで、このテキストがそのままプログラムのコードへと置換されるようになっています。(そこらへんの処理は僕には不明)
さらには混乱しやすい選択肢分岐中のさらなる分岐といった処理も・・・
こんな感じでタブを使って階層を下げることで、「この選択肢の中の分岐なのね」と、かなり視認性が高まりました。
これで、GoogleSpreadシートなどでセルを分け、わかりやすくするため色変えなどの装飾を入れて書いていた3年前とは違い、普通にテキストを書く感覚で執筆することができるようになりました。
それに加えて、実は今まで、一度ゲーム画面ができたあとの誤字脱字のチェックなどは、実際にゲーム画面をキャプチャして「このシーンのこの部分の誤字を直して」などとメールを送っていたので、かなり労力が掛かっていたのです。
しかし、今回のようなプログラムに直接変換できる「コマンド群」を用意してもらったおかげで、シナリオから分岐の処理まで一括して一つのテキストで完結でき、誤字脱字も僕のほうで円滑に修正できるような環境が整ったのです。
これにより、シナリオライター(僕)がプログラム担当者(作っちゃうおじさん)に対して、これまでとは比べ物にならないくらい、意図通りの挙動を伝えられることが可能になりました。
加えてテキストデータのやり取りにはGitHubを利用し、変更箇所がどの部分なのかが明確にわかるような体制も整えました。
手書きスタイルのアナログ小説家だったころからは信じられないほどの進歩です。
ということで、無事に環境が整ったので、あとは執筆するだけです。
コマンド処理でエラーが出ないように気を使ったりするので、1イベント作るのに3時間くらい掛かっていましたが、3年前に比べればはるかに楽でした。
便利さに興奮しながら、休暇を使って一気に10イベント分を作成しました。
書いてる途中でノノとクレがどっちがどっちだか混乱する問題がいまだに発生していたので、わかりやすくするためにドット絵のフリー素材(ぴぽや倉庫さま)でキャラクター設定に絵を当てることにしました。
やはり絵の力は強い・・・!
キャラクターを間違えることが一気になくなりました。
また、このときダウンロードした幼い子供のドット絵素材が男女で2パターンだったので、紛らわしかったクレは男の子に変更しました。
このように進めていく過程で、「ユニの勘が鋭い設定いらないな。属性多すぎだし」とか「体力減った仲間を元気な仲間が担いであげるイベント、処理が難しいからカットで」などと、どんどんと修正をしていきました。
試作版を作ってもらった
ある程度イベントができたので、この時点で作っちゃうおじさんに試作版を作ってもらいました。
おお!ゲームになってる!
今まで頭の中だけのものだったものが、こうやって形になるとテンション上がりますね。
この時点では任意のイベントをひとつ選んで、選択肢を選ぶだけのものでしたが、ゲームのメインとなるイベントパートを遊ぶには充分です。
「どれどれ、面白いかな〜?」と試しにいろいろとプレイしたのですが・・・
なんかいまいち面白くなかったんです。
なんか、全体的にイベントがあっさりしすぎ・・・?
特に正解の安全な選択肢を選んだときは、何事も起こらず短い展開で終わっちゃうんですよね。
もう少しがっつり各選択肢で起きる状況を長文にして読み物として見せようかなとも思ったのですが、ゲーム中に長い文章読みたいプレイヤーなんてあまりいないだろうという懸念もあったんですよね。
さてどうしたものかといろいろ考えたのですが、ふと気づいたのです。
このゲームのメインの面白さは、イベントで選択肢を選ぶことだけではない。
「リソース(体力など)管理」もメインだと。
子供たちの体力やら生存人数を考えながら、「このままじゃまずい!次のイベントは無事に生き延びられますように・・・!」と祈りたくなるような感覚、つまりは「リソース管理」が作り出すそういったプレイ体験もメインなのです。
つまり単発のイベントで選択肢を選ぶだけでは面白いかどうかはわからず、「イベントが終わって、リソースが変化し、またイベントが始まるという一連の流れ」が試作版に必要なのでした。
考えれば当然なのですが、実際やってみないとわからないものですね。
企画書を作成した
ということで、「一連の流れ」を味わえるようなゲーム設計をまとめて、「こんな感じの試作版作ってくれ!」と作っちゃうおじさんにお願いしました。
制作ツールはまさかのパワポです。(ほかの人はどうやってるんだろうか?)
この設計書を作って、ほぼこの通りに試作版を実装してもらいました。(ステータス画面や回想シーンなどは試作版なので除外)
こうして、マップの表示→イベント→クリア画面→マップ表示→イベント→・・・という一連の流れを体験できるようになり、試しにプレイしたところ・・・
あれ?けっこう面白いんじゃないか?
という手ごたえがありました。
あっさりクリアしたイベントは「物足りない」というよりは「無事に済んでよかった!」という感覚になりましたし、油断したら即死の森の中を、自分が子供たちの一人になった気分でびくびくしながら進んでいくような感覚も出てきて、「これはいけるかも・・・!」と思った記憶があります。
やはり試作版ができると手ごたえがリアルにわかるのでとてもいいですね。
これでゲームの骨格はほとんどできたので、この時点で10ほどあるイベント数を少し増やしてエンディングを作ろうかと思ってたときでした。
作っちゃうおじさんから「イベント数30個くらいに増やさない?」という恐ろしい提案が・・・!
1イベント作るのに3~4時間掛かるので、さすがに心が折れる!いかに断るか・・・!?
ということで、続きは次回。
次回は「ネタ切れに立ち向かう」「エンディングの作り方」などを記事にしたいと思います。
次でこの振り返り記事の連載はラストにする予定です。(願望)
この記事を見て、「逃げる僕たちと暗黒の森」を再プレイしたくなったら、プレイしてもらえると嬉しいです!